VCSSLの概要
即席ガイドにつき、丁寧な導入は割愛して、VCSSLの概要を短くまとめて見てみましょう。 客観的な文体はとらずに、開発者視点から率直にありのままを記述しています。
言語の基本的な方向性
唐突ですが、電卓ソフトや現実の電卓(ポケコン含む)には、関数定義や自動処理の機能として、 何らかのプログラミング言語をサポートしているものが結構あります。
あくまで筆者個人の勝手な考察ですが、電卓で動作するプログラミング言語には、以下のような点が要求されると考えています:
- 少ない学習コスト
- → 電卓のために多くの学習コストを費やす人は恐らく少ない
- 短い計算コードを手軽に書ける
- → 大規模よりも小規模重視、計算重視
- コンパクトな実装と仕様
- → 処理系を開発しやすい、搭載しやすい、移植しやすい
- 数値計算の処理速度
- → 少なくともある程度の幅の数値計算には耐えないといけない
実はVCSSLも、もともと電卓ソフト用に開発したものです。 つまり、何らかの斬新な言語仕様やパラダイムから作ったというよりは、 最初に具体的な用途がまずあって、上のような要求点があり、そこから仕様が決まったという傾向の言語です。
実際のVCSSLの開発コンセプトは以下の通りです:
- 少ない学習コスト
- ・ 数値計算分野のC系言語ユーザーを主眼に置いた、C系の標準的な文法
- ・ 独特の文法は可能な限り避ける
- 短い計算コードを手軽に書ける
- ・ 汎用性を削り、C系の中でも簡素な文法に
- ・ 静的型付けでありつつ、やや緩めに
- ・ 簡易用途の補助を重視した標準ライブラリ
- コンパクトな実装と仕様
- ・ 制御構造の構文は if (if-else) / for / whileの3種
- ・ 基本的なプリミティブ型は int / float (=double) / complex / string / bool の5種
- ・ 非オブジェクト指向、大規模向けのパラダイムは特に追わない
- ・ 参照型やポインタを排除してGCを省略、配列を含む全ての型を値型に
- 数値計算の処理速度
- ・ 倍精度浮動小数点数演算で数十MFLOPS 〜 100MFLOPS (※開発当初の目標値)
- ・ 高速な動的評価(eval)
最初に 「 少ない学習コスト 」 を挙げていますが、やはり開発当初はあくまで電卓用だったので、この点は最も重要でした。 実際、既存の電卓ではシンプルなBASIC系を採用しているものをよく見かけます。 しかしVCSSLでは、数値計算分野のC/C++ユーザーを特に重視したかったので、C系の文法を採用しました。 その代わりに、C系の中でも標準的な、なるべく独特でない見た目になるようにしました。
とは言っても、とっつきやすいBASICと比べて、Cは汎用重視の色が濃いので、「 短い計算コードを手短に書ける 」ために、 どれだけ(他のC系スクリプト言語のように)小回りを確保するかという配慮も必要です。
結局は妥協点ですが、以下のような感じになりました( FizzBuzz ):
上の通り、VCSSLはC系スクリプト言語の中でも保守的で、相応しい形容はまさに「電卓とかで動くCっぽいやつ」という感じです。 C言語そのものを採用しない事で、ユーザーがCの知識をそのまま適用できなくなる不利も生じるわけですが、 短いガイドに軽く目を通せば扱えるくらいシンプルにできれば(実際にこのガイドはそのために書いたものです)、 プログラミング未経験の方の存在も考慮すると、利点が上回るケースもあると判断しました。
標準ライブラリの諸機能
一転して、標準ライブラリの機能について、はある程度の汎用性を確保しています。 具体的には、簡易用途向けであまり高度な事はできませんが、GUIや2D/3Dグラフィックスなどをサポートし、 手軽にそうした処理を扱えます。計算/可視化用以外でも、それらの機能を用いて、簡易GUIアプリを作ったりする用途にもある程度は使えます。
グラフィックス系の機能を色々とサポートした理由は、筆者自身が数値計算をやっていて、 「計算結果やデータの可視化などをもっと手軽にできたらいいのに」と思っていた事に由来しています。 つまり、仮に計算メインの用途でも描画処理やアニメーション処理などを行いたい場面は結構あるわけで、 C/C++は速い代わりに、そのあたりを面倒に感じていました。
そしてVCSSLはせっかくC系の文法で手軽さを意識したので、 そのあたりを程々にシンプルな形でサポートできれば、(重い処理はやはりC/C++ですが)比較的ライトな可視化処理・シミュレーション用途や、 計算処理にGUIの設定画面を付けたりする用途などでも使えて、「 それはそれでありかもしれない 」と思いました。 従って、VCSSLが当初の電卓用の言語(1.0)から、独立した単体のスクリプト言語(2.0)としてもリリースするようになった時点で、そのような機能の拡充を行いました。
VCSSLの公式サイト内の「コードアーカイブ」では、 実際にVCSSLの標準機能を使って作成した、各種プログラムを配信しています。以下はその例です:
ソフト内組み込み用のサブセット「Vnano」
続いて、VCSSLのサブセットである、Vnanoの概要についてまとめてみましょう。
といっても、Vnanoの開発コンセプトは、実はVCSSLの初期コンセプトとほぼ同じで、既にこの節の最初にまとめた通り「 電卓などに組み込まれて動く、コンパクトでC系の記法の簡易言語 」そのものです。
先にも述べた通り、VCSSLでは上のコンセプトから出発した後、ある程度の汎用用途での使用も視野に入れるようになり、機能の拡充を行いました。 電卓組み込みの言語から、単体でも使える言語として脱皮するには、あまりにも用途の幅が狭すぎたためです。 一方でその副作用として実装規模は大きくなり、初期のように「 処理系を開発しやすい、搭載しやすい、移植しやすい 」を目指す方向性からは少し離れてしまいました。
そこで、一度初期コンセプトに立ち戻り、 ソフトウェア内への組み込み用途に焦点を絞って、機能の幅を削って再びコンパクト化したのがVnano (VCSSL nano)です。 Vnanoの処理系はオープンソースで、一般の方々が、実際に自作ソフト内などに組み込んで使う事が可能です。 そのためのガイドなども下記公式サイトで公開しています:
機能が削られているだけで、文法の中心部分では、VnanoもVCSSLも基本的には同じ言語※です。 そのため、このガイドの解説内容は、特に断らない限り、VCSSLとVnanoの両方で成り立ちます。
次回は、実際にVCSSLでプログラムを書いて実行し、基本的な入出力を行ってみます。